このコーナーでは、ゴルフ界を牽引する世界の名選手や往年の名手が語った珠玉の名言を、隔月で紹介していきます。ゴルフ界を席巻し、名を馳せた名プレイヤーの才能と人間味が感じられる、数々の魅力的な格言。これらの言葉の生まれた背景には、彼らの人格、品性、生き様などが映し出されているようです。その技術、体力、精神力を言葉から紐解いて、ご自身のゴルフ魂に火を灯してみては。
第5回目の「名言こぼれ話」は、ジーン・サラゼンです。
1935年に開催された第2回マスターズで、最終日の15番、ピンまで225ヤードの第2打を、4番ウッドで打ったボールが直接カップインして、アルバトロス(ダブルイーグル)を達成。首位を走っていたクレイグ・ウッドに追いつき、翌日のプレーオフを制して、栄光のグリーンジャケットに袖を通すと共に史上初のグランドスラマーになりました。
同時期活躍していたボビー・ジョーンズやウォルター・ヘーゲンの盟友で、その人となりを観察したりスイング分析をしたりと、人間味とウィットに富んだ人物であることが知られています。発明家でもあり、サンドウェッジを考案したことでも有名です。
たいていのゴルファーは、基本を身につける前にスコアーをつけようとする。
これは歩き方を覚える前に走ろうとする愚かしい行為だ。
―ゴルフコースに出る前には、やらなければならないことがたくさんある。基本的な最低限のルールと、マナーを身につけることは必須だ。また、基本的なショットが打てるようになるためには、練習場で鍛錬する必要がある。
これらの基本をしっかりと身につけてから、コースに出るべきである。
上手なゴルファーは、ボールを打つ前に大切なことだけを考えるが、下手なゴルファーは悪いことだけを考える。
―下手なゴルファーだけでなく、スランプに悩む人、悪い癖が抜けきらない人も、同じである。アドレスしている時に、このボールが思い描く通りに飛ばないイメージしか頭に浮かんでこない。上級者は悩むことなくのびのびとしたスイングができ、レイアウトにまで考えが及んで打つ方向がきまるのだろう。ミスした場合であっても分析し、解決できるのである。
バンカーショットで大切なことは、技術的な細目を覚えるよりも、それを実行する勇気である。
―ボールの後ろ、1インチのところに薄くクラブを入れ、ボールの下の砂をとって思い切り振り抜く。これは技術的なアドバイスであって、現実にプレーするのは、プレーヤー自身である。ホームランでOBになったこと、力を抜きすぎて一度でバンカーを脱出できなかったことなど、すべてが自身の経験である。この不安を取り除いて、振り切ることができるかどうかである。
もちろんお金は必要さ。でもスポーツ選手は、まずその本分を忘れてはいけないんだ。私はゴルフを通して、人のぬくもりや友情をいっぱいもらった。お金は必要だ。でもそればかりを追い求めていたら、何かを失う。もっと大切なスピリッツをね。
―あるレベルに達するまでは、どれだけ稼げるかが尺度となる。しかしあるラインを越えると、自ずと収入は伸びてくる。自己満足だけのために自分本位に振る舞えば、いずれ得たもの以上に失うものがあるだろう。ルールとマナーを守ること、誠実にプレーすることなど、スポーツマンシップが不可欠なのである。
ジーン・サラゼン Gene Sarazen プロフィール
1922年、弱冠20歳にして全米オープン、全米プロを制覇。
1932年には全英オープンを獲得し、1935年の第2回マスターズでは奇跡のアルバトロス(ダブルイーグル)で逆転優勝。初のグランドスラムの偉業を達成した伝説のプレーヤー。
親友であり、ライバルであったウォルター・ヘーゲンとともに初期の米国プロゴルフ界を牽引し、ゴルフ史に残る名シーンを残す。栄光を極めても決しておごることなく、彼のゴルフに対するこだわりと情熱が人々の心を魅了し、多くの感動を与えた。
晩年には、彼の名を冠した『ジーン・サラゼン ジュンクラシック』が毎年日本で行われていたことから、日本でもなじみ深い人物であった。
1999年5月13日、97年の長寿を全うした。